2015年1月8日木曜日

改めて「育成」について考える ~将来ある少年達を裏切らないために~

この時期、小学生の試合を観る機会が増えてくる。8人制のサッカーに戸惑いながらも全体を観てみる。小学生のサッカーが8人制になるとき、選手がボールに関わる機会が増えるということがうたい文句だったと記憶している。
しかしながら、勝敗を決めなくてはいけない大会になると(すべての試合が勝負であることには間違いない事実ではあるが・・・)FWに足の速い選手がいて、奪ったらカウンターという図式が圧倒的に多く、組み立てることへのリスク回避が感じられる。ボールに関わる機会が増えるどころか、確実に3人はベンチに下がり、一度もボールに触る機会がなくなるのはどうかと思う。

それよりも、個人の技術に関して感じることがある。我々の優先順位は「止める」「観る」「運ぶ」「蹴る」であると考えている。ただ、最近のサッカーにおいてはスピードを求められ、身体のスピードではなく判断のスピードを早くしなさいと指導者は言う。
我々のカテゴリー、すなわち小学校高学年から中学校3年生までの選手は、明らかに物理的なスピードの高低差が多分にあるなかで、早い判断をしたとしても身体のスピードが遅い選手も多い。

最近はサッカーというスポーツがメジャーになるにつけ、多くの少年がサッカーに親しむようになった。海外サッカーを手軽に観ることができ、Jリーグが発足して早くも20年という月日が経つ。我々が小学生時代の公園では、キャッチボールをしている少年しかいなかったが、近年は家の中で音楽や読書にいそしみ、スポーツとはあまり縁のない運動能力の低い少年も、サッカーというスポーツに興味を持ってボールリフティングを始めるようになる。

一生懸命リフティングをすると、必ず上達をする。1回が10回、50回、100回、1000回と伸びていく。運動能力が低い子供も、高い子供も皆リフティングはできるようになる。その子供たちが小学高学年になり試合を始めると、足の速い子供は速いし、身体の大きい子供は大きいし、少しバランスの悪い子供はすぐにバランスは改善されないし、走り方や歩き方がぎこちない子供はどこまでいってもぎこちない現実がある。しかしながら、子供たちは一生懸命サッカーが上手くなりたいと努力をする。

我々指導者はこのカテゴリーの選手に対して、個人のボール技術、足の出し方・運び方、一昔前は体の向きをしっかり考えなさいと指導してきたが、最近は早い判断というフレーズが多く聞かれる。将来身体のスピードや強さの差がなくなってきたときに脚光を浴びる個人技術及び個人戦術を習得させることが、今まさに疎かになっていると感じてしまうのは、私だけであろうか。

我が名古屋FC出身の選手が高校以後全国レベルでも活躍している事実は、前回書いたように今出来ることをいかに真剣に取り組ませるかという「意識付け」をベースとし、身体のスピードが遅い選手でも、「止める」「ステップをする」「蹴る」という1,2,3のリズムにおいて、ステップをなくした「止める」「蹴る」という1,2のリズムを習得させることを継続的に指導してきたことが要因の一つであると考えている。
この理論は、長年多くの子供たちをみてきて、「今」ではなく、「将来」を見据えたときに避けては通れない現実だと感じたことが、これまでの名古屋FCの指導方針となっている。

このような観点で小学生の試合を観ていると、ボールを持っている選手に足を出してボールを奪いに行く技術は哀れとしか言いようがなく、また、身体のスピードが遅い選手が良い判断をしても、遅いがゆえに相手の選手の足に当ってしまったり、ステップを踏んでしまったゆえに、足の速い相手にインターセプトされてしまったりという光景がいかにたくさんあるか・・・。

小学生の指導者のコーチングを聞いていると、「何でそこに走らないんだ!」「そこでワンツーをやったらどうだった?」とか「ラインを上げたらどうだ?」とかはよく耳にする。個人のことでは、「身体の向きは?」くらいは聞こえることはたまにはあるが、ボールの持ち方や足の出し方、ボールの受け方、ボールの運び方、どちらの足でボールを運び始めたら有利であるとか、ステップの仕方(足の運び方)を試合中にコーチングしているチームはほとんど見受けられない。組織や戦術に関することにウエートが多く傾いている感じがする。
これでは、将来身体が大人に近くなってきたときに何ともならないし、もともと運動能力や身体能力に恵まれていた選手でさえ、高校生ぐらいになると埋もれていく選手が多いと思われて残念になってくる。

名古屋FC出身のプロ選手は、引退した選手も含めて9名に上る。フットサルを含めると11名にもなる。これら選手たちよりも身体能力が高い選手は多く在籍していたし、「この選手は本当に上手いな」という選手もいたが、この11名に「かなりの確率でプロになる」と感じた選手が多いのは事実である。

最近、名古屋FCの大会成績は芳しくないが、現在のメンバーが必ず高校サッカーでも中心選手となり、また、何名かのプロフェッショナルも輩出できると確信している。

この育成年代はチームにおいて、「目にはみえない部分で如何に真摯にサッカーに取り組むか」という考え方を植え付け、更に勝者になるには「勝者とは何ぞや」を教え、目にみえる部分では、「身体能力に左右されない個人の技術・個人の戦術」を身に付けてあげられるかが、将来ある少年に対しての我々の義務だと考えている。
小崎 峰利